木質バイオマス発電所のCO2を利用した少花粉スギ品種のBECCS育苗システム実証実験を開始
住友大阪セメント株式会社(社長:諸橋央典、本社:東京都港区)は、セメント業界初の試みとして、栃木工場バイオマス発電所(於:栃木県佐野市)の排気ガス中CO2を利用した「BECCS※育苗システム構築」に向けた実証試験を、株式会社オムニア・コンチェルト(社長:藤原慶太、本社:東京都港区)と共同で着手しましたのでお知らせいたします。
(※BECCS:Bioenergy with Carbon Capture and Storage)
【背景】
政府は、花粉の少ないスギ苗木の生産割合を現状の5割から10 年後に9割以上に引き上げる方針を示しており、今後少花粉品種のスギ苗木の需要が高まることが予想されます。これにより、効率的な苗木生産方法の確立が望まれる状況です。
他方で、国内のバイオマス発電所数は現状1,062 か所で、近年急増しており、木質チップが逼迫しています。また、昨今の二酸化炭素(以後「CO2」)削減の流れから、木材を利用した建築物も増加傾向にあり、木質チップだけでなく建築用木材の需給逼迫も想定されます。
こうした背景のもと、カーボンニュートラルへの取組を強化している当社は、スギ人工林の少花粉品種への転換と、木材の需給逼迫という課題に対応するため、2023 年よりCO2 を利用した苗木を促成栽培する検討を開始しています。農林業用環境制御装置による苗木栽培の最先端オートメーション化技術を有する株式会社オムニア・コンチェルトとの連携により、次世代を見据えた先進的かつ効率的な苗木栽培システムの構築に向け、実証試験設備を栃木工場内に設置し、実証実験を開始いたしました。
将来的には、広葉樹の苗木促成栽培にもトライし、豊かな山林再生にも貢献できるネイチャーポジティブ企業を目指します。
【取組の概要】
通常、植物は光合成を行い成長しますが、1,000ppm 程度超のCO2 高濃度環境下では成長速度が速くなることが知られております(大気中CO2 濃度:通常 約400ppm)。そこで本取組では、当社の栃木工場での電力供給を担う木質バイオマス発電所からの排ガスを浄化した後に、少花粉苗木栽培を実施するハウス(以後「育苗ハウス」)にCO2 源として施用して促成栽培を実施します(図1)。これは、昨今急速に注目を集めているCCS とバイオマス発電を組み合わせたBECCS(Bioenergy with CarbonCapture and Storage)にあたるネガティブエミッション技術(NETs)の一つとみなすことができ、このBECCS 型育苗システムにより育った苗木を植林に利用することは、大気中の炭素を除去するカーボンオフセットに当たります。この取組は、一つのセメント工場の使用電力を自社の木質バイオマス発電によるグリーン電力で供給できる当社独自のカーボンニュートラルに向けた新しい姿として、業界で初めての取組となります。
図1 本取組概要図(排ガス浄化→育苗ハウスへの供給)
また、本取組では、株式会社オムニア・コンチェルトの高度な環境制御装置が備え付けられた最先端育苗ハウスを導入することで、温度や湿度、CO2 濃度、灌水等を自動管理・制御しながら、縦型水耕による苗木の最適な成長環境を作り出すことを可能としています(図2、3)。加えて、バイオマス発電所のグリーン電力を利用した特定波長のLED で長日処理、休眠阻害を施す促成栽培も行います。
これらの先進的な制御機能とバイオマス発電所のグリーン電力とCO2 を最大限に活用し、省力化され効率的かつカーボンニュートラルな苗木の生産システムの構築を目指します。
図2 育苗ハウス外観とハウス内設備紹介
図3 育苗ハウス内部と苗木栽培イメージ
【将来の事業構想】
本取組は、2020 年12 月に当社と栃木県が締結した包括連携協定に基づく連携の取組としても位置付けられており、栃木県庁および栃木県山林種苗緑化樹協同組合の協力・指導の下、成育苗木の植栽実証試験まで視野に入れて進めています。将来的には、『BECCS での炭素除去』のみならず、栃木県内をはじめ全国の林業の振興や少花粉化の施策への貢献、排ガスCO2 以外の副産物の有効活用までをも含めた新しい事業体の創出を目指します。バイオマス発電所を核としたサーキュラーエコノミーの構築並びにカーボンニュートラルへの取組は、周辺地域の農林業や地域経済の発展、新たな雇用の創出にもつながり、これに寄与できるソリューションの開発を目指してまいります。
企画部 TEL 03-6370-2725 FAX 03-6370-2756
【本技術に関する問い合わせ先】
セメント・コンクリート研究所 TEL 047-457-0185 FAX 047-457-7871