CSRの取り組み トップインタビュー

薗田綾子 様
Profile
1963年、兵庫県生まれ 甲南大学文学部社会学科卒業
広告代理店、株式会社リクルート映像を経て1988年8月、株式会社クレアンを設立、代表取締役。企業の環境情報開示として環境報告書やサステナビリティレポートの製作を通して、企業と市民をつなぐコミュニケーションを進め、豊かな社会を実現するために活動中。数十社に上る環境報告書・CSR報告書を製作している。

住友大阪セメントグループの
社会的課題解決に向けた取り組み

2018年6月、持続可能な社会の実現を企業ミッションとするCSRコンサルティングの株式会社クレアンの薗田綾子社長をお招きして、当社の社会への貢献と事業の成長との両立のあり方について、社長の関根福一との対談を行いました。

事業の根本は人に対する優しさ

薗田 愛読書は新渡戸稲造の「武士道」とお聞きしましたが、特にどのあたりに惹かれるのでしょう。

関根 新渡戸稲造は武士道の「七つの徳」*を挙げていますが、そのなかで最も心を打たれるのが、「仁」つまり「人に対する情け」です。事業も、その根本に人に対する優しさがなくてはなりません。お客様、地域の方々、社員の皆さんを含め、人と接する際は、何より心の優しさ、心の痛みが分かることが大切です。

*七つの徳:義、勇、仁、礼、誠、名誉、忠義

薗田 それに加えて、創業精神も大切にしておられます。

関根 「信用を重んじ確実を旨とし」「浮利にはしり軽進すべからず」という住友家の精神は、400年経った今も当社の中に息づいています。私は、CSRやSDGs(持続可能な開発目標)の本質は、言葉は違えども、住友の精神を集約したものだと強く感じています。また、当社は110年の歴史を持ちますが、そのルーツは福島の磐城セメントにあります。それもあって、私は何とか福島の復興に役に立ちたいという強い気持ちを持っています。

あらためてセメントの存在意義を知ってもらう

薗田 セメント協会の会長に就任されましたが、業界の今後についてどのようなビジョンをお持ちでしょうか。

関根 日本のセメントの歴史は約140年になります。地味ながら、今も昔も人々の暮らしを支えてきました。セメントは、天災の多い日本において、治山治水の要となるものです。また、前の東京オリンピックから50年以上経って、首都高など交通インフラも老朽化しています。さらには、下水処理、環境インフラもまだまだ脆弱です。セメント業界の果たすべき役割は実に大きいといえます。セメント業界はその存在意義をもっと広く伝えていくべきです。

薗田 政府も「国土強靭化計画」を打ち出しています。国土強靭化の進捗については、どのようにお感じになっておられるでしょう。

関根 まだまだこれからです。20年前の日本の公共投資を100とすると現在の水準は47しかありません。英国や米国などの公共投資は、この20年で約2倍になっており、先進国の中で減っているのは日本だけです。もちろん不要な「ハコもの」の公共投資は論外ですが、本当に必要なものはどんどん実行していかなければなりません。
 日本はもともと天災が多い国です。地震については、今後30年間に震度6以上の揺れの確率は太平洋側の大部分で20%以上となっています。そこに雨が加わります。世界の年間降雨量の平均は約800ミリですが、日本は約2倍です。その雨が日本アルプスなど3000メートル級の山々から一気に流れ下ってきます。どうしても、水害や土砂災害が起きやすくなります。これを守ってくれていたのが、山林です。山林は、植林や間伐という手入れをして初めて、良い森に育ちます。ところが、近年木材の価格が安いため、オーナーが手を入れなくなってきました。手入れをしない山林は根が弱く、簡単に土砂に流されてしまいます。日本の国土と国民の命を守るには治山治水が不可欠です。2014年に発生した広島の土砂崩れをきっかけに、国土交通省も全国53万ヵ所の土砂災害のハザードマップを作成しました。セメント業界としても、砂防ダムなどの建設において貢献していかなくてはなりません。

CSRの取り組み トップメッセージ

薗田 世界中の防災や交通インフラに対しても、日本のセメント技術が貢献できる部分は大きいのではないでしょうか。

関根 日本のセメント技術は世界最高水準で、特に護岸、滑走路など強度を要求される場所で活躍の機会は多いと思います。日本の道路は、大部分がアスファルト舗装で、コンクリート舗装はわずか5%しかありません。今後は、用途に応じてよく比較検討し、最適なものを使うことが大事です。
 コンクリート舗装は、「1 DAY PAVE」(早期交通開放型コンクリート舗装)というものがあります。養生期間を大幅に短縮したことで、早期交通開放が求められる場面で広く活用されています。また、「ポーラスコンクリート舗装」というのもあり、水たまり防止や高い排水機能により、雨の日の安全走行に寄与します。さらに、建築分野では200メートル級の高層ビル向けに「高強度コンクリート」を提供しています。
 人口減少に伴い、東京オリンピック・パラリンピック以降、国内のセメント需要は全体として減少していくでしょう。これに対して、当社では、安全面を重視した高品質な製品の需要を開拓するとともに、新規分野の開拓もグローバルに進めていきます。高機能品事業を伸ばしつつも、セメント関連事業中心で行くという点は今後とも変わらないでしょう。今のうちに、将来的なセメントのコスト競争力確保のために、工場を強化しています。

地域・自然環境と共生し、持続可能なセメント事業とするために

関根 東京23区、横浜市のごみ処理場から出る焼却灰と、同地域の下水汚泥の一部をセメント会社が引き受けています。当社はさまざまな廃棄物・副産物をセメントの原料・熱エネルギーとしてリサイクルしています。1,450度のキルン(焼成窯)を持っているので、ほとんどのものを焼成でき、二次廃棄物もダイオキシン等の有害物質も出しません。当社の群を抜いたリサイクル能力は、幅広い用途に活用できる可能性があります。

薗田 企業の新たなSDGsの取り組みとして注目されているものに、南相馬ソーラー・アグリパークがあります。福島の復興を担う次世代の人材育成の場として、市内の小中学生の8割以上が体験学習しています。同時に、さまざまな企業がトマト栽培支援や企業研修の場として参画しています。

関根 当社もルーツが福島なので、復興の手助けをしたいと思っています。これまでも仮設住宅への土地提供などを行ってきましたが、さらに小名浜にセメントを貯蔵する新しいサイロをつくって復興需要への対応と地域の活性化を目指しています。

CSRの取り組み トップメッセージ

薗田 地域創生に貢献しながら、持続可能な社会の実現に取り組んでおられるようですが、その取り組みを詳しく教えてください。

関根 当社は、すでに栃木工場で木くずを使ったバイオマス発電の実績があり、赤穂工場、高知工場でも石炭の補助エネルギーとしてバイオマスエネルギーを活用しています。さらに、2018年4月、新たに八戸バイオマス発電株式会社が営業運転を開始しました。年間発電量は、約27,000世帯の年間使用電力量に相当する量を見込んでいます。熱エネルギーとなる木質チップは、共同出資者である住友林業株式会社と東日本旅客鉄道株式会社から、山林の間伐材や鉄道沿線で伐採する鉄道林などを提供してもらっています。こうした取り組みによって、エネルギーの転換を進めると同時に、地域の雇用を創出しています。

薗田 自然環境を守る活動の一環として、滋賀県の伊吹山など、地域の森づくりにも熱心に取り組んでおられるようですね。

関根 石灰石を採掘した後の鉱山に草木を植える「鉱山緑化」に取り組んできました。鉱山には剝土(はくど)と呼ばれる表層部の土があるのですが、その剝土に生えていた植物を土ごと大切に保管しておいて、採掘跡地に戻します。種を吹き付けてしまえば簡単なのですが、それでは外来種などが混じってしまい、固有種が失われてしまいます。非常に手間がかかりますが、固有の生態系を守るためには必要なことだと考えています。伊吹山は古来より「神の山」と崇められてきました。地域の美しい自然を守ることは、私たちが事業をやらせていただくうえで当然の務めです。

薗田 生物多様性も地球の持続可能性にとって重要なテーマです。希少動物を守るための取り組みもされていると伺いました。

関根 かつては粘土をセメントの原料として使っていましたが、火力発電所から出る石炭灰が粘土の代替として使われるようになって、山から粘土を採掘する必要がなくなりました。当社には、長崎県対馬に約16ヘクタールの粘土山が手つかずのままありますが、この森林に絶滅危惧種である「ツシマヤマネコ」が70頭から100頭生息していることが分かりました。そこで、当社は2007年から、このツシマヤマネコの保護活動を始めました。えさとなる「アカネズミ」などの小動物を増やすために、社員が地元の子どもたちと協力して、広葉樹林を育て、小動物のえさとなるドングリのなる木の苗を植えました。今も全国の社員が「自販機基金※」を通じてこの取り組みをサポートしています。

※社内の自動販売機を通して、売り上げの一部を募金に充て、自治体に寄付をしています。

薗田 すばらしい取り組みです。希少種の保護に加えて、地域との共創モデルでもあり、また子どもたちにとっては生物多様性に目を向ける未来教育ともなるものです。山だけでなく、海を守るために、魚礁の設置を進めておられると伺いました。

関根 魚礁は当社の事業でもありますが、海洋資源の保護に役立っていると自負しています。これも不思議なご縁なのですが、対馬で育てた広葉樹林が豊かな土を作り、その養分が海に流れ込み、藻が育つようになりました。藻を目当てに小魚が集まり、それをえさとする大きな魚がやってきます。対馬で最大の実績をほこる高さ20メートルの「ハイブリッド魚礁」は、この魚礁の設置により魚が増えたことで、漁師の方々から大変に感謝されています。しかも私たちはこの時、外部から一切資材を持ち込まないというルールを設けました。現地のものを使い、地元に仕事を創るためです。さらに私たちは、売っておしまいではありません。定期的に調査しビデオに撮って状況報告をしています。他の漁協にもお見せして効果を実感してもらっています。長崎県は北海道に次ぐ第二の水産県であり、対馬のほか、壱岐、五島列島でも魚礁設置を普及拡大しています。

10年後にどんな会社でありたいか

薗田 実に根気のいる地道な取り組みですね。このような長期的な取り組みを含め、持続可能な成長のために、どのようなビジョンを持っておいでですか。

関根 中期経営計画は2年目に入りました。中期経営計画そのものは3年間ですが、役員や管理職には、10年後にどんな会社でありたいのかという視点で発想せよと言っています。短期間では、簡単なこと、すぐに結果がでることを追いかけ、難しいことを先送りにしがちです。課題を洗い出し、3年以内に必ず着手するよう言っています。たとえ解決できなくても、それだけで次の世代が楽になります。希望が生まれ、明るく元気な会社になります。ダメだと思っていたことでも、やってみると意外にできるものです。一生懸命やっていると、応援してくれる人が現れてくるものです。

薗田 難しい社会的課題を解決しながら、ビジネスを推進していくことで、5年先、10年先のアプローチが確実に変わっていくと思います。

CSRの取り組み トップメッセージ

関根 当社の従業員数は単体で1,182名とあまり大きくないので、新入社員全員の顔が見えます。一人ひとりのキャリアをイメージしながら採用しているので、彼らの思いに共感できます。人事異動も場当たり的なパッチワークではいけません。人事部が異動を決める時には、社員のキャリアの次の次まで考えたものであるか、その思いの深さを聴くようにしています。会社は公器であり、大切な人材をお預かりしています。彼らに活躍の場を提供するのも、会社の責務です。
 女性の活躍ということでは、現在、女性管理職は9名おり、さらに本年6月には、業界初の女性部長が誕生しました。女性の新入社員のなかには、「工場長になりたい」という人もいます。セメント業界では長く「営業は男の仕事」と言われてきましたが、営業の第一線で働く女性も、きちんと成果をあげ、お客様の評価も高い。こういう姿を見て、次の人も続いていくことを期待しています。彼女たちの夢を実現できるよう、会社もサポートしていきます。
 SDGsの17の目標のなかから、社内で重要テーマを選定中です。1年をかけて議論して絞り込み、来年度には発表できると思います。SDGsを活用して、社会的課題解決に向けグループ全員の力を結集するとともに、未来に向かって、明るく元気な会社にしていきたいです。

薗田 SDGsは若手を元気にする、と企業の間で評判です。明るく元気な会社を目指しておられる関根社長には、SDGsはぴったりだと思います。本日は、貴重なお話をありがとうございました。

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